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第45回 ”矯正用インプラント”は必需品 2005/08/11

最近メールでの問い合わせが非常に多い”矯正用インプラント"の話をしたいと思います。

矯正で使用するインプラント(ミニ・インプラント)は、歯の欠損部を補う補綴(被せ)目的で使用するインプラント(人工歯根)とは考え方、使用法、操作法、材質等、発想が全く異なります。

治療上は、非常に有効なアイテムの一つですので、当医院では、積極的に取り入れています。
治療が終われば当然除去します。簡単な外科処置が必要なのですが、基本的な手技さえきちんと守れば、安全な治療法です。

当医院では、2年以上前から各種ある矯正用インプラントを取り入れています。現在までに、120本以上、50症例を超える方に使用してきました。
”インプラント矯正”の概略については、<第30回 最新の治療法(インプラント矯正)>をご覧下さい。

インプラントを絶対的な固定源(動かない場所)にできるため、他のメカニクスでは不可能であった歯の動きを作用させれますので、非抜歯、非外科で治療することが可能な症例が増えてきたのは確実です。

”矯正用インプラント”を使用した当医院の症例で具体的にお話してみたいと思います。


A

B
図Aは、初診時、”受け口(反対咬合)”を主訴に来院された方の下顎咬合面です。
反対咬合ですので、ピンク矢印の方向に下の歯牙全体を後方へ大きく移動させて、正常な被蓋(かみ合わせ)にすることが、治療をする上で必要不可欠でした。

図Aの黄色丸と青丸の場所へ矯正用インプラントを埋入して、固定源(動かない場所)にする計画を立てました。

図B図Aの黄色丸の場所を拡大したところです。

図Cが矯正用インプラントを埋入した直後の状態です。粘膜麻酔のみで、施術時間は約5分でした。埋入場所、粘膜の厚み、骨質などによって、ミニインプラントのサイズ(径、長さ)、形状を替える必要があります。

図Dは、結紮線で臼歯部の部品(ブッカル・チューブ)と固定したところです。図Eの画面左奥(右下臼後パット部)に埋入されている咬合面観です。

続いて、図Fの青丸の左下奥(画面上は右側)の埋入場所についてですが、拡大したのが、図Gになります。親知らずが半埋伏(頭の一部分だけ出た状態)でした。

図Hは、左下親知らずを抜歯しているところです。図Iが抜歯直後です。図Jが咬合面観です。

図Kのように、抜歯した場所の若干後方部にミニ・インプラントを埋入したところです。図Lは縫合した状態です。

粘膜が分厚い場所の場合、ヘッド部分が埋入型のインプラントを使用します。インプラント体の長さ、太さ、ヘッドの形状などは、ケースによってかえる必要があります。

図Mは、左側後方部を拡大したところで、パワーチェーン(ゴムのようなもの)で後方へ引っ張っているところです。図Nの青丸のところに、インプラントが埋まっています。黄色矢印の方向へ下顎歯列全体を動かしているところです。

図Oが術前で、インプラントを固定源として、黄色矢印の方向へ下顎全歯牙を同時に後方移動する治療計画を立てて移動させました。図Pが後方移動が完了した状態です。

図Oから図Pの状態になるまで、6ヶ月しかかかっていません。側方拡大(左右への拡大)は全くしていません。セファロ(側貌レントゲン)で計測すると、大臼歯部で、片側約6o移動していました。

インプラントを利用すると、非常にダイナミックに、しかも短時間に多数歯を同時に移動できます。他のテクニック、装置では絶対不可能なことが可能です。

C

D

E

F

G

H

I

J

K

L

M

N

O

P

下顎歯列全体を、口腔内だけで、確実に後方へ大きく移動させる装置、テクニックは、現在のところインプラントを使用する以外ありません。
 ですから、矯正用インプラントを使用しない場合は、通常左右小臼歯を1本ずつ抜歯するか、骨格性の強いケースは、外科(骨きり)して、前方部を後退する、という手法になります。

当医院の別の症例で、矯正用インプラントの有効性について、もう少し触れて見たいと思います。


Q

R
左記の12枚の写真(図Q〜図@)は同一人物です。主訴は”出っ歯”です。診断名は、”上顎前突”です。上顎の前方部の歯牙を後方へ移動させることが、治療上の主目的のケースです。

最初の左右2枚(図Q図R))が術前の左右側面観です。左縦欄が左側、右縦欄が右側という形で経過写真にしました。

図W、Xから図&、Yまでが2ヶ月を要しましたが、それ以外は全て一ヶ月ごとの経過写真です。図Q、Rから図Z、@まで、7ヶ月しか要していません。

図S、Tの青丸の箇所(第二小臼歯と第一大臼歯の間)に、矯正用のインプラントを埋入しました。左右第一小臼歯は抜歯しています。

図U、Vのように、黄色矢印の方向(後上方)へスプリング(Ni-Ti coil)が縮む力で6前歯に同時に力をかけています。

図W、Xでかみ合わせが浅くなって、上下の前後的なずれが小さくなってきているのがおわかり頂けると思います。

2ヶ月後の図&、Yでは、抜歯スペースは完全に閉じて、上下の前歯が揃う噛み合わせ(切端咬合という)にまでなりました。

図Z、@では、インプラントでの牽引を終了して、最終的な個々の歯牙の歯根の移動を行っているところです。

トータルでの動的治療期間は10ヶ月でした。インプラントを固定源にした場合、確実に治療期間は短縮できます。

このケースの場合、上顎前歯の後方移動(リトラクションという)は、通常のテクニックの場合、大臼歯部(顎外固定を併用すればさらに良い)を固定源にします。そして、両側犬歯だけをまず後方移動します。その後4前歯を後方に移動させます。
 それでも固定源の消費(アンカーロス)は必ず多少は起きて、臼歯部が前方へ若干移動します。さらにリトラクションの期間が2回に分けるため2倍かかります。約半年は、治療期間が余計にかかります。

S

T

U

V

W

X

&

Y

Z

@

顎内に、動かない場所を矯正用インプラントによって自由に設置し、それを活用できる、というのは、作用・反作用を常に念頭において治療しなければいけない他の治療法と比べると、夢のようなアイテムなのです。
 もっと言えば、治療方法を根本から見直す必要があるくらい、画期的な手法といえます。

別の事例を見てみましょう。


A

B
図A〜Dは同じ方です。”矯正用インプラント”を上顎に4本埋入しました。

術前は、図Bの黄色線のように上下のかみ合わせの面(咬合平面という)が左下がり(画面上は右下がり)でした。

図Bの青丸の箇所(上顎前歯部上方に2本)へ引っ張り上げる力をコントロールすることにより、咬合平面を変えることが可能です。緑矢印よりピンク矢印に強い力をかければ、ピンク線のように左下がりが悪化しますし、緑矢印の力を強く作用させれば、緑線のように咬合平面が改善されます。

また、図C(右側面)ですが、図Dのように、臼歯部に左右1本ずつインプラントを埋入することにより、黄色矢印の方向への歯牙の移動や大臼歯部の圧下(歯茎の中へ押し込む力)も自由にコントロールできます。

C

D

E

F

また、別の症例ですが、図Eのように欠損部の中央に埋入しておけば、図Fの黄色矢印のように、前方歯牙の後方移動量と、後方歯牙の前方移動量を別々に自由にコントロールすることが可能になります。

その他にも、インプラントを固定源にすると、工夫次第でいろいろな治療法のバリエーションが可能となります。

私の場合、タイトルに書きましたように、”矯正用インプラント”は、治療を行う際の”必需品であり、最高のアイテム”といえます。

ところで、長所ばかり掲載するのは当HPの趣旨に反しますので、私見ですが、”矯正用インプラント”のマイナス面、注意点についても触れておきます。

1)外科処置が必要
  手技的にはほぼ確立されています。ドリリング、切開や剥離といった”本格的な手術”は
  一切必要ありません。ですから、術後の腫れや痛みはほとんどありません。
  しかし、術者のスキルによる差は当然生じてしまいます。
  外科処置にも精通した歯科医のほうが良いのではないでしょうか?
  埋入する場所の粘膜、骨の性状、形態を把握した上で、目的に合ったインプラント体を
  選択する必要があります。


2)取れることがある
  矯正用インプラントは、顎骨と機械的にくっついているだけですので、
  補綴で使用するインプラントのような骨との化学的な結合(オステオインテグレーション)
  はしていません。
治療が終われば除去するからです。時として、取れることがあります。
  しかし、再度埋入すればいいだけのことです。
  骨質の問題から、3回以上取れるようでしたら、私の場合、不適応の患者さんとみなします。
  近々、HAコーティングされたものが発売されるそうですので、適応症が拡大されると思います。
  
3)歯根を傷つけることに注意する
  これは、術者の知識とスキルの問題になります。歯牙の歯根と歯根の間の狭い空間に
  埋入することが非常に多い
ですので、各歯牙の歯根の解剖学的な位置関係を十分
  把握しておく必要があります。
  実は、歯根を傷つけない、触れないようにするいくつかのポイントがあります。
  麻酔法、埋入法さえ誤らなければ、100%回避できる事項です。

4)費用がかかる
  通常、インプラント埋入のための治療費を別途設定している医院がほとんどだと思います。
  しかし、それに余りあるメリットがあるケースが大半なのですが・・・。
  長所、短所を説明した上で、最終的には患者さんに委ねるべき事項です。

どんな治療法にも、プラス面とマイナス面があります。プラス面だけを強調しすぎたコンサルテーションは禁物ですが、”矯正用インプラント”に関していえは、革命的なアイテムであることは間違いありませんので、矯正治療を謳っている医院であれば、必ず治療選択肢の一つとして説明する義務はあると考えます。

ゴールは当然として、治療方法の決定権も患者さんにあると考えています。
矯正用インプラントは、非抜歯、非外科で行うための強力な武器になることも重要な点です。

余談ですが、私の場合、ミニ・インプラントを歯周病治療にも取り入れています。絶対に動かない場所を顎内につくれる、ということは、他の分野への応用も可能と考えています。またの機会にお話します。




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